先進医療特約は必要なのでしょうか?

こんにちは、生活設計塾FPオフィス幸せ家族ラボ代表、
家計運用コンサルタントの内田英子です。

「先進医療特約」をご存じでしょうか?
ここ数年、医療保険やがん保険の相談に保険代理店などに行かれたほとんどの方は
耳にされたことがある言葉ではないでしょうか?

小さな保険料負担の一方で大きな保障が用意できることから加入は当然と思われている方も多いことでしょう。

しかし、イメージからとりあえず付加したものの、どのようなときに利用できるのかなど、詳しい内容は知らないままというかたも少なくないかもしれません。

今回は、意外と知られていない先進医療の概要や、先進医療特約に加入する際の注意点などについてこちらのブログで解説していきます。

■先進医療とは?

先進医療とは、わたしたちが日本国内の医療機関で受けられる療養サービスのひとつで、公的医療保険の枠組みの中にあるものです。
ただし、保険証の提示によって少ない自己負担額で利用できる、
いわゆる一般的な「保険診療」とは異なります。

基本的に「保険適用外」であり、
新しく研究・開発された治療や手術等で、
公的医療保険の対象にはなっていないものの、
今後公的医療保険の対象とするかどうか評価検討する段階にあるものが「先進医療」とされています。

先進医療は患者が希望すれば利用することができますが、
通常は一般的な保険診療を受ける中で、患者が希望し医師がその必要性と合理性を認めた場合に行われます。

・先進医療の治療費は全額自己負担

先進医療の療養を受ける場合、どのような費用がかかるのでしょうか?
一般的な保険診療を受ける際と同様の診察料や必要な検査料、投薬料、入院料などに加えて、「先進医療の技術料」が必要になります。

「先進医療の技術料」は保険適用の対象外なので、
全額自己負担ですが、そのほかの診察料などの費用は、
例外的に保険適用の対象とすることができるようになっています。

この例外的な部分における自己負担割合は、一般的な保険診療と同様1~3割です。

ちなみに、保険適用の対象となる部分については、
高額療養費制度も利用することもできるようになっています。
この制度を適用すれば、さらに自己負担額を減らすことができます。

先進医療の変化

令和3年5月1日現在、先進医療は84種類あります。
(厚生労働省「先進医療の各技術の概要」https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/sensiniryo/kikan03.htmlより)

種類は随時見直されており、「先進医療」と言われる医療技術のラインナップは時代とともに変化しています。
先進医療は、公的医療の対象とするか評価検討の最中にある新しい医療技術を指しますが、
新しい治療や手術法であればすべて先進医療となるわけではありません。

先進医療は認定制となっており、先進医療と認められるためにはある程度の実績を積んでいることが必要です。
実績を積み、その有効性や安全性が確認されているものが「評価療養」として厚生労働省の認定を受け、
公的医療保険の対象としてもよいか検証される先進医療のカテゴリに入るのです。そして、当然のことながら、検証は終わりを迎えます。

その結果、公的医療保険の対象と認められ先進医療から外れることもありますし、
反対に公的医療保険の対象とは認められず、先進医療から外れることもあるのです。

先進医療を利用するために

厚生労働省が認めた医療技術であれば先進医療となるのでしょうか?

先進医療に該当するためには、満たすべき条件が3つあります。

1.厚生労働省が認めた医療技術であること

2.厚生労働省が認めた適応症(対象となる疾患・症状等)であること

3.厚生労働省へ届け出た(基準を満たす)医療機関であること

先程述べたように、厚生労働省の認定を受けた医療技術であることのほか、
その技術を適応するにあたっての疾患等にも一定の要件が設けられています。
そして、その療養サービスを提供できる医療機関も限定されており、
先進医療に該当するためには一定の基準を満たす医療機関で受けることが必要です。

先進医療に該当するためには、これらすべての条件を満たす必要があるため、
たとえば1.と2.の条件を満たしていても、
3.の条件が満たしていない場合には先進医療に該当しません。

先進医療に該当しない場合は自由診療となり、技術料が全額自己負担となります。また、先進医療の場合には、公的医療保険の対象となるそのほかの診察料や検査料などの費用も保険適用の対象外となりますので注意が必要です。

■先進医療特約で用意できる保障

先述の条件を満たした先進医療を利用し、全額自己負担となる「先進医療の技術料」を負担した場合に給付を受けられます。一般的に医療保険やガン保険に付加するのが一般的ですが、医療特約と同時に付加する場合もあります。

なかには、あらかじめ主契約に組み込まれている医療保険や、特約ではあるものの主契約に最初からセットされたものもあります。
先進医療特約の保障期間は5年や10年など期間限定とし自動更新していくものが多く、月払保険料は数百円程度のものが多いようです。

先進医療特約ではどのような保障を用意できるのでしょうか?

一般的な保障内容は、大きく2つに分けられます。

1.先進医療給付金

先進医療の技術料の実際の負担額と同額の給付金を受取れるものが一般的です。
ただし、給付額には限度が設けられており、
通算500万円から1,000万円、2,000万円としているものが多いです。(※生命保険会社によって限度額は異なります。ご確認ください。)

2.先進医療一時金
先進医療給付金に上乗せして、契約時に定められた定額の一時金を受取ることができるのが一般的です。
給付額は5万円、10万円としているものが多いですが先進医療給付金の10%などとしているものもあります。

先進医療を受ける場合は、遠方に出向いたり、入院をしたりするケースも少なくありませんので、その際に必要な交通費や付き添いのかたの宿泊費などに使えることを想定しています。

先述の通り、先進医療保障は特約で付加するのが一般的ですが、
あらかじめ先進医療保障を主契約に組み込む医療保険も増えてきました。
そのような医療保険の中には先進医療給付金を設けず、指定の先進医療を受けた場合には定額の一時金のみ給付するといったものもあります。

先進医療といえば、ガンに罹患した場合に受けられる陽子線治療や重粒子線治療などの放射線治療を想像されるかたが多いのではないでしょうか?

後述しますがこれらの医療技術は、実際に近年実施されている先進医療の中でも実施件数が比較的多く、受けるにあたっては高い技術料も必要となります。
一方で先進医療は先述の通り時代とともに変化し、随時内容が見直されています。
現在先進医療に該当するものも、先進医療でなくなったり、保険診療の対象となったりする可能性もあります。

そこで、保険診療か先進医療かにかかわらず、指定の放射線治療を受けた場合に利用できる保障を主契約に組み込んだ商品も登場しています。
契約時に定めた一時金を、もしものときに受取ることができるといったようなものです。

■実際にいくらかかる?先進医療のお金

先進医療を利用する場合、費用はどれくらいかかるのでしょうか?
ここでは、全額自己負担となる「先進医療の技術料」に限定して解説します。

以下の表をご覧ください。現在実施されている先進医療の中でも比較的実施件数の多いものの技術料平均額をまとめたものです。

(出典)厚生労働省 中央社会保険医療協議会 「2020年12月23日令和2年6月30日時点で実施されていた先進医療の実績報告について」を元に技術料を算出。

先述の通り、現在実施されている先進医療は84種類ありますが(令和3年5月1日現在)、実際にかかる技術料には幅があることがわかります。

数百円や数万円程度のものもあれば、高額なものもあり、技術料が最も高いものは「重粒子線治療」の約312万円で、次いで「陽子線治療」の約271万円。一方で技術料が最も低いものは「糖鎖ナノテクノロジーを用いた高感度ウイルス検査」で247円です。

※同じ種類の先進医療でも医療機関によって金額は異なりますのでご注意ください。

■先進医療を受ける可能性

 

先進医療を受ける可能性はどの程度あるのでしょうか?

(出典)厚生労働省 中央社会保険医療協議会 「2020年12月23日令和2年6月30日時点で実施されていた先進医療の実績報告について」

実際に先進医療を実施している医療機関数は、国内252施設で患者数は5,459人です。では実際に、どのような先進医療がどの程度実施されているのでしょう?内訳をみてみましょう。

(出典)厚生労働省 中央社会保険医療協議会 「2020年12月23日令和2年6月30日時点で実施されていた先進医療の実績報告について」

最も件数が多いものは「陽子線治療」の1,196件ですが、
主にガンの療養の際に利用されます。
厚生労働省「2017年全国ガン登録」によると、
上皮内ガンを除くガンに罹患した人数は977,393人。
ここからもっとも件数の多い陽子線治療であっても先進医療として利用する確率は0.12%とかなり低いことがわかります。

また、先進医療に該当するためには適応症であることが必要ですが、
比較的罹患者数の多い消化器系、大腸ガンや胃ガンなどの消化管ガンには
向いていないとされています。

加えて、先進医療を提供している医療機関も限定されていますので、
住む場所によっては遠方にしか施設がない場合は治療を受けに行って帰ってこられるかといった点も考慮する必要があるでしょう。

一方、もっとも男性の罹患数が多い前立腺ガンでは、
多くの場合公的保険医療の対象となっていて、
これらの事情からも先進医療としての利用確率はやはり高くないことがわかります。
先進医療となるケースがある程度限られている結果として、
保険料が安価に設定されているのです。

■先進医療特約の注意点

先進医療特約を検討する際、どのようなことに注意すればよいのでしょうか?
注意点を4つご紹介します。

1.保障が重複した場合、どちらかの先進医療保障から給付を受けられない可能性がある。
近年主契約に組み込む商品も出てきているなど、
備えやすくなった先進医療保障ですが、先進医療保障が重複した場合には、
どちらかの保障を受けられなくなる可能性があることには注意が必要です。

先進医療特約については、同じ保険会社では同一の被保険者において、
先進医療保障を重複して加入はできないとしているところも多いですが、
別の保険会社でも医療保険に加入していて両方で先進医療特約に加入する場合は、注意が必要です。
もし給付金を受取れるようになったら重複して受取れるのか、
事前にそれぞれの保険会社に確認してから契約されることをおすすめします。

2.終身保障と定期保障のものがある。

一般的な生命保険と同様に、先進医療特約にも保障期間には終身タイプと
定期タイプがあります。
終身タイプは一生涯保障が続きますが、定期タイプの保障は期間限定です。

また、先進医療特約は医療保険やガン保険の主契約に付加するのが一般的ですが、
主契約が終身タイプであっても、特約の先進医療特約は定期タイプになっている場合も多いです。

その場合、主契約の保障が続いていれば自動更新される場合が多いですが、
更新の度に保険料が上がる可能性もあります。
もともとの特約保険料は少ないといっても、
知らないうちに保険料が上がっていたということのないように、事前に確認しておきたいところです。
加えて、定期タイプなのであれば一度先進医療給付金を受取った後の更新も可能かどうか、事前に確認しておきましょう。

3.ガン保険と医療保険では先進医療特約の保障内容に違いがある。

先進医療特約はガン保険と医療保険に付加できることが多いですが、
ガン保険に付加する先進医療特約と、医療保険に付加する先進医療特約では
保障内容が違うことをご存じでしょうか?

先進医療特約を医療保険に付加した場合、病気に関わらず先進医療を利用し、
技術料を負担した場合に給付金を受取れますが、
ガン保険に付加した場合はガンによって先進医療を利用し技術料を負担した場合に限られます。
そのため、医療保険とガン保険両方に加入されるのであれば、医療保険に先進医療特約を付加することをおすすめします。

4.保障内容は変化している。
先進医療特約は10年ほど前から付加できる保険会社が増えてきましたが、
その保障内容は変化してきました。
公的医療保険制度における先進医療に基づいた給付を行うといった点は変わりませんが、時代とともに保障の限度額が大きくなったのです。

最近の先進医療特約であれば通算1,000万円程度の保障が受けられるのが一般的ですが、
初期の先進医療特約であれば通算500万円~700万円程度を限度額としているものが多く、
また、実際に受取れる給付金額は1回あたり50万円までとしているものもありました。

もし、しばらく見直していない先進医療特約付きの医療保険があるのであれば、一度保障内容とともに限度額を確認してみることをおすすめします。

また、近年は先進医療の技術料を立て替える必要のない直接払い方式を採用した先進医療特約も登場しています。
保障を利用するときは療養が必要なときですから、決済の手間を省けるのはうれしいポイントといえるでしょう。

■まとめ

保険は万が一の際、損失が大きいリスクに備える手段です。
先進医療特約は活用できる機会は限られているものの、少ない保険料で大きな保障を用意できるため、保険の特性を活かせるものといえるでしょう。

 

一方で、先進医療特約はもしものとき、のご自身の選択肢を広げるといった側面も持っています。
少額の保険料ではありますが、ご自身のライフスタイルの変化を踏まえながら、いつまで、またどこまで必要なのか、
生活設計とともに考えるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。