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2024年税制改正大綱より、扶養控除縮小と児童手当拡大を踏まえたトータルインパクトを試算し解説しています。(2023.12.8更新)
こんにちは、ブレない自分と家計をつくる。
家計の総合医。ファイナンシャルプランナーの内田英子です。
先日、こんなニュースを目にしました。
“扶養控除見直し案浮上 18歳まで児童手当拡充の場合 少子化対策”
(毎日新聞 https://mainichi.jp/articles/20230522/k00/00m/020/256000c )
中学校卒業までの子どもを育てる人に支給される児童手当。
少子化対策の一環として対象となる子どもの年齢を引き上げ、18歳までとする案が議論される中、
手当拡充に伴う財源の一部を確保するために扶養控除を見直す案が出ている、ということを報じる記事です。
実際に盛り込まれたわけではありませんし、案が出ているというあくまでニュースですが、
もしも児童手当が拡充された代わりに、扶養控除が縮小・撤廃されたらわたしたちにはどのような変化が起こることが考えられるのでしょうか。
児童手当の基本と扶養控除の基本を解説しながら、考えられる影響について家計の総合医の視点で書いてみたいと思います。
中学生までの子どもがいる世帯に給付される児童手当。
1970年代初めに創設された制度で「家庭等における生活の安定」や「次代の社会を担う児童の健やかな成長」などを目的として、3歳未満は毎月1万5千円、3歳以上は毎月5千円~1万円が支給されます。
(内閣府「児童手当制度のご案内」より)
児童手当には税金もつかないため何かと支出のかさむ子育て世帯にとっては貴重な手取りを増やす手段の1つです。
支給にあたっては所得制限が設けられています。
昨年2022年10月の改正により加えられました。
児童手当がゼロ円になる年収のボーダーラインはお子様お一人の場合で1,100万円です。
(月5000円の特例給付に切り替わるボーダーラインやその他のご家庭の年収のボーダーラインはこちらの記事で詳しく解説しています。
「【静かな衝撃】児童手当の基本と10月から受け取れる人受け取れない人」)
扶養控除は所得控除の1つで、税法上の扶養家族がいる人が受けられます。
※健康保険での扶養の概念とは異なりますので、ご注意ください。
税法上の扶養控除に含まれるのは例えば以下のような家族です。
・高校生のこども(一般扶養親族)※年末時点16歳以上
・大学生のこども(特定扶養親族)※年末時点19歳以上23歳未満
・同居する70歳以上の配偶者や親(老人扶養控除)
年齢によって区切りが設けられていることがわかりますね。
ただし、税法上扶養していると認定されるためには満たすべき要件があります。
要件は以下のとおりで、4つすべてを満たしていることが必要です。
(1)配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族をいいます。)または都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人であること。
(2)納税者と生計を一にしていること。
(3)年間の合計所得金額が48万円以下(令和元年分以前は38万円以下)であること。
(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)
(4)青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないことまたは白色申告者の事業専従者でないこと。
基本的に税法上の扶養家族と認定されるためには近い身内であり、
生活費の出どころを同じお財布にしていることが必要です。
(2)の要件は、別居していても満たすことは可能ですが、常に生活費や療養費等の仕送りをしていることが必要です。
また、(3)では所得要件も設けられています。
子どもが大学生になってアルバイトをはじめたりすると、合計所得金額が48万円を超えるケースもあります。(※給与収入の場合は年収103万円がボーダーラインです。)
その場合は、子ども自身が勤労学生控除という別の所得控除を受けられるようになりますが、親がそれまで受けていた特定扶養控除はなくなります。
特定扶養控除は金額が大きいですし、勤労学生控除には所得制限もありますから、子どもがアルバイトをしている場合には気をつけておきましょう。
また自営業者の方は、青色事業専従者給与を経費算入していたり事業専従者控除を使っている場合は、扶養控除を利用できません。
受けられる所得控除額は以下のとおりです。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1180.htm
所得税は次の算式でもとめられます。
扶養控除が適用されると、税率をかけ算する所得額を下げることができます。
税率は所得金額によって段階的に上昇していきますから、所得が大きい方ほど節税効果が大きくなります。
さて、もし児童手当の拡充と同時に扶養控除が減額・廃止されたらどうなるのでしょうか。
高校生の子どもを育てる親が利用できるのは一般扶養控除で38万円です。
一方所得額によって所得税の税率は異なりますから、年収によって例えば以下の様に一般扶養控除による節税メリットは異なります。
節税メリット=年間およそ158,400円(所得税+住民税)
節税メリット=年間およそ109,000円(所得税+住民税)
(※その他の所得控除は考慮していません。)
もし扶養控除がゼロになるとしたら、児童手当が高校生になっても月1万円程度支給されるのであれば、
Bさんの家計ではプラスになることが期待されますが、Aさんはマイナスになることが予測されます。
加えて、もし現状の児童手当制度と同様に所得制限が設けられたままなのであれば、
Aさんは児童手当の特例給付も受けられず、世帯手取りは減少することが見込まれるのです。
このニュースを目にしたとき、思わず子どもを人質に取られているような気持ちになったのは私だけでしょうか。
子どもを育てるにあたってはやはりお金が必要ですから、もし児童手当が本当に子ども18歳まで拡充されるのであれば喜ばしいことです。
しかしその財源をこどもを現実に育てる保護者から取るというのはフェアではないように思います。
個人的には子どもはいるだけで社会を明るくしてくれる存在だし、こどもは社会の宝だと思っています。
できれば子どもを育てる家庭は公平に扱ってほしいとも思います。
後日の報道では、医療保険料から広く確保するという案も出てきているようです。
今年金生活をされている方のご不安は計り知れないことと思いますが、子育て世帯をはじめとする現役世代はその姿を未来として描かなければいけないという苦しさも抱えています。
他には何か案はないのかとも思いますが、いずれにしても答えはおそらく今後社会が変わらない限りは出ないものなのだろうと思います。
だからこそご自身の日々の暮らしに向き合い、ご自身で暮らしをつくっていくことが大切になっているのだと感じています。