【2022年1月~】任意継続被保険者が途中で見直しできるようになります。(予定)

2021/10/18更新

こんにちは、生活設計塾FPオフィス幸せ家族ラボ代表、
家計の総合医。家計運用コンサルタントの内田英子です。

健康保険制度の改正により、来年の1月より
任意継続被保険者制度に加入されている任意継続被保険者が、
期間の途中で任意喪失できるようになることが見込まれています。

任意継続被保険者制度は
健康保険に加入されている方が退職し、
それまでの健康保険の被保険者ではなくなった際に、
選ぶことができる公的医療保険制度の1つです。

実際に退職手続きをされたことのある方などは、
元勤務先から手渡された書類でその存在を知られた方もいらっしゃることでしょう。

しかし、ほとんどその内容を知らない、もしくはあることすらご存じないという方も
少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。

今回のブログでは、普段はなじみのない「任意継続被保険者制度」の基本から、
任意継続被保険者制度を実際にどのように活用していけばよいのか、利用の際の注意点などについて

家計の総合医の視点で、解説していきます。

【目次】

【 1 】任意継続被保険者制度
1.任意継続被保険者制度の概要
2.任意継続被保険者制度の注意点
3.任意継続被保険者制度のメリット

【 2 】2022年1月からの変更点

【 3 】まとめ

【 1 】任意継続被保険者制度

1.任意継続被保険者制度の概要

 任意継続被保険者制度は、これまで健康保険の被保険者だった人が、
退職により健康保険の被保険者資格を失った後も、
手続きをすれば引き続き最大2年間、
 退職前に加入していた健康保険の被保険者になることができる制度です。

ただし、申請手続きにあたってはいくつか要件があります。

○申請できる方

:退職前に健康保険の被保険者期間が継続して2ヶ月以上あった方。

○申請できる期間

:退職後20日以内

被保険者期間は継続している必要はありますが、
2ヶ月間でいいというのは比較的要件としては緩やかなものと言えるのではないでしょうか。

一方で申請できる期間は、退職後20日以内です。
退職後の慌ただしい暮らしを想定すると、20日以内に申請手続きを行い
任意継続被保険者制度を利用するためには
退職前に国民健康保険に加入した場合の保険料を調べておくなどの準備が必要となるでしょう。

2.任意継続被保険者制度の注意点

退職後もそれまでと同じ健康保険に加入できると言う点では安心感がある一方、
退職前とは異なる点もあることには注意が必要です。

中でも特に覚えておきたい注意点を3つご紹介しながら
任意継続被保険者制度について、引き続き解説します。

1:保険料は全額個人負担

在職中に給与から天引きされるかたちで支払う健康保険の保険料の負担は労使折半が原則であるため、
ご自身で実際に支払わなくてはいけない保険料は半額で済んでいました。

しかし、退職後任意継続被保険者制度の被保険者となる場合は
それまでに加入していた健康保険では事業主負担として事業主が支払ってくれていた保険料も
ご自身で支払わなくてはなりません。

任意継続被保険者制度の保険料には上限がありますから、
所得の高かった方の場合は、労使折半がなくなり全額自己負担となるからといって、
単純にこれまでの保険料の倍となるわけではありませんが、
退職前に支払っていた保険料よりも上がることは想定しておきましょう。

ちなみに、任意継続被保険者の保険料は以下の算式で計算することができます。

標準報酬月額は以下の2つを比較して、どちらか低い方を採用します。

 ①被保険者資格喪失時の標準報酬月額
 ②各被保険者における全被保険者の標準報酬月額平均額(前年の10月31日基準)

①は任意継続被保険者となるご本人の退職時の平均月給をイメージされるとよいでしょう。

②は平たくいえば、
ご自身がそれまで加入されていた健康保険に加入されている方の
平均月給ラインをカテゴリで示したものです。
組合健保などさまざまな健康保険がありますが、標準報酬月額平均は保険者により異なります。

例えば協会けんぽの場合であれば、全被保険者の標準報酬月額平均は30万円です。(令和3年度)

この2つを比較して、どちらか低い方の金額に保険料率を掛けて保険料を算出します。
保険料率も保険者によって異なりますが、協会けんぽの平均保険料率は10%です。
(令和3年。都道府県ごとに異なります。介護保険料率は全国一律1.8%です。)

よって、任意継続被保険者保険料の上限額は以下のように算出できます。
(介護保険の被保険者ではない方で、協会けんぽの平均保険料率を採用した場合。)

30万円×10%=3万円/月

ちなみに、任意継続被保険者の保険料は2年間変更されることはありません。
また、6ヶ月単位、1年分までまとめて支払うことも可能になっています。
これを「保険料の前納」といいます。
前納すると、協会けんぽであれば年あたり4%の割引が受けられますので、
手元資金に余裕がある方は活用を検討してみましょう。

2.細かい給付内容が異なります。

任意継続被保険者となる場合、
受けられる給付内容は基本的にはそれまでの健康保険と同様ですが、
細かい給付内容ではなくなる給付もあることには注意が必要です。

任意継続被保険者となった場合には
受けることができなくなる給付を3つご紹介します。

①傷病手当金
②出産手当金
③被扶養者の家族出産育児一時金

傷病手当金は被保険者がけがや病気で働けずにお給料を受け取ることのできない場合に
加入中の健康保険から受け取ることができるいわゆる「所得補償」です。
要件を満たせば、それまでもらっていたお給料の約6割の給付を、
免責期間3日間を除く休んだ日数分受けることができます。
(支給されることとなった日から最長1年6ヶ月まで。)

出産手当金は、被保険者が出産のために仕事を休み、
お給料を受け取ることのできなかった場合に、加入中の健康保険から受け取ることができるお金です。
傷病手当金同様、所得補償の側面を持っており、
それまでもらっていたお給料の約6割の給付を出産の日以前42日間と出産の後56日間のうち、
休んだ日数分受け取ることができます。

家族出産育児一時金は、被扶養者が妊娠4ヶ月以上で出産した場合に、
こども1人あたり42万円(産科医療保障制度に加入する医療機関等で出産した場合。
当てはまらない場合は40.4万円。)が支給される制度です。
退職前であれば被扶養者の出産前に手続きを済ませておくことで、
健康保険から直接医療機関等へ支払いを行ってくれるため、
差額分だけ支払えばよく、大きなお金を一度個人で立て替える必要はありません。
そのため、家族出産育児一時金の給付をうけることができるのであれば、
まとまった出産一時金を用意しておく必要がなくなります。

いずれも、万が一を想定すると、大変な時期に受け取ることができる給付ですから、
あるとなしでは大違い。とても心強い制度ですよね。

しかし、任意継続被保険者の場合は、加入中に事由が発生してもこれら傷病手当金と出産手当金、
家族出産育児一時金を受け取ることはできません。

特に扶養者がいらっしゃる場合は、ご自身お一人のことではなくなりますから、
あとから「こんなはずじゃなかった」とならないように、
あらかじめ知ったうえで、冷静に検討することは大切です。

3.2年間の期間限定加入です。

冒頭でもご紹介したように、
任意継続被保険者となることができる期間は、2年間に限定されています。

現行の制度では、
一度加入されると2年の間、任意でやめることはできません。

例えば退職後には継続して所得が大きく下がる見込みがある場合や、
2年の間に家族の加入する健康保険の被扶養者になれる見込みがある場合などには
その他の公的医療保険の加入方法と一緒に慎重に検討しましょう。

3.任意継続被保険者制度のメリット

任意継続被保険者となるにあたってはさまざまな注意点もあることは、
これまでにご紹介しましたが、
場合によってはメリットもあります。

例えば任意継続被保険者制度では、
所得の低い扶養家族がいる場合、退職前の健康保険同様、被扶養者になることもできますから、
しばらくの休職期間ののちに転職を想定されている方で、
被扶養者がいらっしゃる場合などには、
扶養の概念のない国保に加入する場合と比較して保険料負担を抑えられることが想定されます。

また、被保険者がおひとりの場合にも状況によっては、
任意継続被保険者となることで保険料を節約できることが予想されます。

退職されて健康保険の被保険者ではなくなった方が加入できるのは、
多くの場合市町村国保か任意継続被保険者制度ですが、
市町村国保では、主に前年度の所得と世帯人数に基づき保険料を支払う仕組みが
採用されています。

上限はありますが、例えば松山市国保の場合は介護分を除いても
年間82万円が負担保険料上限とされていますから、
前出の通り、保険料上限が月3万円程度に抑えることが可能な任意継続被保険者と比較すると、
前年所得によっては任意継続被保険者となった方が
大きな保険料の節約になることも考えられるでしょう。

※個別の事情により保険料負担額は変化します。

【 2 】2022年1月からの変更点

  健康保険制度の改正を受け、2022年1月1日(予定)より、
任意継続被保険者制度の期間途中での任意喪失が可能になることが見込まれています。

 これにより、これまでは任意継続被保険者となった場合は、
2年の間、任意でやめることはできませんでしたが、途中でやめることができるようになる見込みです。

 具体的に、どのような方の場合に、メリットがあるのでしょうか?

 たとえば協会けんぽに加入されていたAさんという方が2021年の3月末で退職したとします。
退職時に任意継続被保険者制度と市町村国保の保険料を比較したところ、
任意継続の保険料の方が負担が小さかったため、Aさんは任意継続被保険者になりました。

ところが、退職後は失業給付と年金収入しか収入がなく、
再度就職することはなかったため、低くなった所得を基に、
退職から1年過ぎた2022年4月からの市町村国保の保険料を計算すると、
任意継続の保険料を下回ることがわかりました。(市町村国保料は前年の所得により変化します。)

このような状況では、市町村国保に加入した方が保険料負担面では有利ですが、
任意継続被保険者としての2年の縛りがあるために、
途中で市町村国保に移ることはできないのが現状の任意継続被保険者制度なのです。

しかし、今回の改正により、2022年1月からはAさんのように任意継続被保険者期間であっても
途中で保険料が安くなった市町村国保に移ることが可能になる見込みです。

 

【2022/3 追記】
改正後は、2022年1月1日以降に任意継続被保険者となる場合で、
かつ健康保険組合に加入している場合、
資格喪失時の標準報酬月額>当該健康保険組合における全被保険者の平均標準報酬月額
の時、保険料はこれまでの2択ではなく、
健康保険組合が規約に定めた額を置き換えて保険料が決定されます。
どのような保険料設定に、いつからなるかは勤務先によって異なります。

個別に確認しましょう。

【 3 】まとめ

わたしたちの手取り所得は税金や社会保険料負担に影響を受けて変化します。

社会保障制度における選択肢は複数ある場合も多いですが、
適切な選択肢を選ぶにあたっては、家計を総合的に、長期的にみる視点が欠かせません。

当オフィスのコンサルティングでは、
退職や育休などの節目において、
まずは現在のご自身のご家族構成や所得状況、あなたのお考えから、
今後どのような選択肢をとることができそうなのか、

社会保障制度を考慮した総合的な診断も可能です。

それまであると思っていた選択肢も、

案外あっという間にとれなくなっていた、ということも多いものです。

退職や育休を前に将来に不安を感じていらっしゃる方はぜひお早めにご相談ください。