こんにちは、生活設計塾FPオフィス幸せ家族ラボ代表、
家計の総合医。家計運用コンサルタントの内田英子です。
来年の1月1日より雇用保険のマルチジョブホルダー制度が新設されます。
雇用保険のマルチジョブホルダー制度とは、
平たく言えば、これまで要件を満たせず雇用保険には加入できなかった
65歳以上の労働者を対象とし、
雇用保険の加入要件を一部緩和し、加入枠を拡大する新たなしくみです。
一般的には60歳頃に勤務先で定年退職を迎える方が多いですが、
定年退職後も働く方は多く、雇用保険に加入しながら働くシニアは
右肩上がりで増えています。
(参考資料:厚生労働省「雇用保険事業年報」 )
定年退職後の勤務においては
それまでお勤めされていたようにフルタイムで一つの職場で働き続ける方であれば
特段問題となることもなく雇用保険に加入できることが推測されますが、
様々な事情等に配慮しながら、バートタイムの仕事を複数掛け持ちしながら働く場合には、
雇用保険の加入要件を満たせずに加入できない場合もあります。
雇用保険のマルチジョブホルダー制度は、
これまでは要件を満たせず雇用保険の加入対象から外れてしまっていたシニアの方に、
雇用保険への加入窓口を広げることによって新たな支えとなる仕組みと言えるでしょう。
そこで、今回のブログでは、雇用保険の基本から、シニアが知っておきたい雇用保険の給付内容、
そして来年の1月から始まる雇用保険マルチジョブホルダー制度について、
家計の総合医の視点で、解説していきます。
【 1 】雇用保険とは
1.雇用保険の概要
2.雇用保険の被保険者
3.シニアが知っておきたい雇用保険の給付3つ
① 基本手当(失業給付)
②高年齢雇用継続給付
③高年齢求職者給付金
【 2 】雇用保険マルチジョブホルダー制度
1. 雇用保険マルチジョブホルダー制度
2.雇用保険マルチジョブホルダー制度の注意点
【 3 】まとめ
雇用保険は労災保険とともに「労働保険」とも言われる国の保険の一つです。
資本主義社会においては、労働者の雇用が自動的に保証されているわけはないため、
労働者にとっては雇用されることを望んでいても雇用されないリスクをはらんでいます。
雇用保険は、そのように場合によっては労働者に大きなリスクをもたらしうる
失業時に必要な給付を出したり、労働者の福祉の増進を図りながら働く人を支える、
いわば「お勤めする人を国がサポートする制度」と言えるでしょう。
また、雇用保険はその名称からもお分かりいただけるように、
保険のしくみを採用しており、政府が保険者となり、
保険料を払って加入している人が、万が一の時に必要な補償を受けることができます。
保険料は業種によって異なる保険料率と賃金実績によって決まり、
労使ともに負担します。(※折半ではありません。)
ちなみに令和3年度の保険料率は0.9%~1.2%で、そのうち労働者負担は0.3%~0.4%です。
対象となる賃金総額に対してあてはまる保険料率を掛けて、
保険料が決定されるしくみで、保険料の計算は毎年4月からやり直されます。
支払方法は給与天引きとなり、加入していれば給与明細書では「雇用保険」の欄に
実際にあなたが負担した雇用保険料が記載されます。
気になる方は給与明細書で確認してみましょう。
雇用保険に加入し、被保険者となることができるのは
以下の(1) (2)の要件に当てはまるすべての方とされています。
(1)31日以上引き続き雇用されることが見込まれる者であること。
具体的には、次のいずれかに該当する場合をいいます。・期間の定めがなく雇用される場合
・雇用期間が31日以上である場合
・雇用契約に更新規定があり、31日未満での雇止めの明示がない場合
・雇用契約に更新規定はないが同様の雇用契約により雇用された労働者が31日以上雇用された実績がある場合 ( 注 )
[(注)当初の雇入時には31日以上雇用されることが見込まれない場合であってもその後、31日以上雇用されることが見込まれることとなった場合には、その時点から雇用保険が適用されます。]
(2)1週間の所定労働時間が 20 時間以上であること。
(出所:厚生労働省HP「雇用保険の加入手続はきちんとなされていますか!」)
要件にあてはまればすべての方を加入対象とし、事業所に届け出を義務付けている一方で、
パートタイムで働く方などは(1)の要件を満たした場合であっても
勤務日数によっては加入できない場合もあるのが現状です。
雇用保険が行っている給付はいくつかありますが、
中でも50代から60代の方に
ぜひ知っておいていただきたい給付を3つご紹介します。
(図は著者作成。無断転載・コピーを禁じます。)
①基本手当(失業給付)
②高年齢雇用継続給付
③高年齢求職者給付金
失業手当とも呼ばれ、失業した人が仕事を探すあいだ支給される給付です。
65歳未満の被保険者を対象とし、原則として離職の日以前の2年間に
12カ月以上被保険者期間がある場合に、
以下の要件に当てはまれば給付されます。
・働ける状態で就職する意思がある。
・求職活動をしている。
雇用保険では離職理由が会社都合の場合には補償が手厚い傾向にあり、
その場合、基本手当においても離職前の1年間に被保険者期間が通算12か月以上あり、
上記の2点に当てはまれば受け取ることができます。
基本手当として受け取れる金額は、離職前6カ月間の1日当たり賃金の45~80%に当たる賃金日額に、
雇用保険の加入年数などに応じた給付日数を掛けて計算した金額です。
(※上限があります。60歳未満の場合、賃金日額の50-80%となります。
賃金日額が低いほど高い支給率となる傾向です。)
7日間の待期期間と、自己都合による退職の場合は
2か月もしくは3か月の給付制限期間のあと給付が開始されます。
給付日数は90~330日で、離職理由、年齢、被保険者期間によって異なります。
(障がい者等の就職困難者の給付日数は150~360日です。)
ちなみに、手当の受給期間は離職の日の翌日から原則1年間です。
これを過ぎると給付日数が残っていても支給されない点には注意が必要です。
現役時代に比べて賃金が大きく下がった(賃金額が75%未満に低下)
働くシニアの方(60歳以上65歳未満)に支給されます。
支給にあたっては60歳に達した日において被保険者期間が5年以上あることが必要で、
支給額は最大で賃金の15%です。
失業手当を受けずに働くシニアの方向けの高年齢雇用継続基本給付金と、
失業手当を受給した後に再就職したシニアの方向けの高年齢再就職給付金があります。
申請手続きにあたっては、
原則として、事業主を経由して行うとされていますので、
もしお勤め先の人事・総務の担当者などから案内がないようであれば、
ご自身で促すことも必要となるでしょう。
※被保険者本人が希望する場合は、本人が申請手続きを行うことも可能です。
※所得税等の課税対象とはなりませんが、在職老齢年金と同時に受けられる場合は年金額が調整されます。
※2025年4月から10%に縮小される見込みです。
65歳以上で離職したシニアの方に、仕事を探すあいだ支給されます。
ただし、受給にあたっては離職前の1年間、
6か月以上被保険者期間があることが必要です。
給付金は退職前賃金日額の50~80%で、
一括で30日分または被保険者期間が1年以上ある場合は50日分を受け取れます。
(※令和3年度の1人当たりの最大金額は30日分の場合で約20万2000円、50日分の場合は33万8000円です。)
条件を満たせば何度でも受け取ることができ、
年金と同時受け取りも可能です。
加えて65歳以上になるまでに退職し、失業手当をもらった人でも
要件を満たせば受け取れますが、
申請にあたっては失業手当同様、みずからハローワークに出向き、
申請することが必要です。
ちなみに、65歳未満で退職した場合に受け取ることができる失業手当では、
20年以上勤務し雇用保険に加入していたシニアの方であれば
150日まで受け取ることができるようになっています。
64歳11か月で退職した場合と、65歳0か月で退職した場合では、
退職時期では1か月の違いであったとしても
受給金額には大きな差がでることは知っておきたいところです。
65歳以上になっても失業手当を受け取ることができるのは、
本当にありがたいことです。
しかし、65歳まで勤務できる職場にお勤めされている方などの場合には、
退職時期に注意しましょう。
2022年1月から施行される新しい制度です。
これまで雇用保険では、加入にあたっては、前述の通り、
1つの事業所で1週間の所定労働時間が20時間以上、
かつ31日以上の雇用見込みがあることなどが必要でした。
雇用保険マルチジョブ制度では、
2つの事業所の合計で、1週間の所定労働時間20時間以上であること、
加えて以下の要件を満たせば、
マルチ高年齢被保険者として雇用保険に加入できるようになったのです。
・65歳以上の労働者であること
・2つの事業所でともに、31日以上の雇用見込みがあること。
(参考資料:「雇用保険マルチジョブホルダー制度」を新設します(労働者向け、事業主向け))
雇用保険に加入していれば、65歳を超えても
失業時には失業手当として高年齢求職者給付金を受け取ることができます。
働く期間も伸びることが予測される人生100年時代において、
とても心強い制度と言えるでしょう。
年を重ねるにつれ、1つの事業所で長く働けなくなる場合もある現状と照らし合わせると、
雇用保険マルチジョブホルダー制度の活用の機会は
今後増えることがみこまれます。
しかし、利用にあたっては注意点もあります。
・申請にあたっては、労働者本人のハローワークでの申し出が必要。
・2つの事業所で要件を満たすことが必要。
・雇用保険料の負担が発生する。
・要件を満たさなくなれば、自ら資格喪失手続きが必要。
それぞれの注意点を解説します。
申請にあたっては、ご自身でハローワークに出向き、申請をする必要があります。
申し出を行った日から、被保険者となることができますが、
申請にあたってはお勤め先の協力も必要です。
そのため、勤務する会社へそれぞれ相談をもちかけ、
必要書類を揃え、ハローワークへ出向くなど、
さまざまな負担が発生することが予想されます。
シニアの方にとっては、その負担感は必ずしも小さいものではないことが懸念されます。
労働時間を短くとり、複数のお勤め先で勤務される方もいらっしゃるかと思いますが、
雇用保険マルチジョブホルダー制度の適用にあたっては、
2つの事業所で要件をみたすことが必要です。
3社、4社合わせて要件を満たすことができる、といった場合には、
残念ながら、適用されません。
雇用保険に加入することとなりますので、当然ながら月々の保険料の支払いが発生します。
雇用保険の労働者負担の保険料率は業種により0.3%~0.4%(令和3年度)と、
高い料率ではないものの、こんなはずじゃなかったとならないためにも、
手取り給与が減るのだということは予め知っておきたいところです。
要件を満たし、マルチ高年齢被保険者として雇用保険に加入して以降、
労働時間が変わり加入当初の2事業所で要件を満たさなくなった場合には、
ご自身で以下の必要な手続きをとる必要があります。
・別の事業所で要件をみたしている場合:被保険者を継続する手続き
・要件を満たさなくなった場合:資格喪失手続き
わたしたちの暮らしはさまざまな社会保障制度に影響を受けています。
社会保障制度における選択肢は複数ある場合も多いですが、
適切な選択肢を選ぶにあたっては、
家計を総合的に、長期的にみる視点が欠かせません。
当オフィスでは、退職などの節目において、
まずは現在のご自身のご家族構成や所得状況、あなたのお考えから、
今後どのような選択肢をとることができそうなのか、
社会保障制度を考慮した総合的な診断も可能です。
退職を前に将来に不安を感じていらっしゃる方はぜひお早めにご相談ください。
あなたとご家族が一日も長く健やかに安心して暮らせるよう、
総合的で長期的な視点に基づく
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