【2023年改正】教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置

2023.1.30更新

こんにちは、
ブレない自分と家計をつくる。
家計の総合医。の内田英子です。

先日来年度の税制改正大綱が発表されました。
以前にこちらのコラムで書いた教育資金の一括贈与の特例の内容について、
変更が見込まれていることがわかりましたので記事内容を修正し、更新します。

先日ご相談の中で、相続対策についてのご質問を
お受けする機会がありました。

相続税の課税対象となる財産があるということでしたので、
生前贈与の現実的な選択肢の一つとして、
教育資金の一括贈与の非課税制度などのご紹介をさせていただきました。
生前贈与にあたっては、
教育資金以外にも利用できるさまざまな税制優遇措置があるのですが、
その内容は案外知られていないように思います。

そこで、今回のブログでは、教育資金としてまとまったお金を贈与したいときに利用できる
「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」について、
家計の総合医の視点で解説します。

【 1 】制度のあらまし
【 2 】制度利用のフロー
【 3 】制度利用の注意点
【 4 】まとめ

【 1 】制度のあらまし

「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」は、
例えば父母や祖父母などの直系尊属から、
一定の要件をみたした子や孫へ
教育資金を一括贈与する際に活用できる贈与税の非課税制度です。

基本的に身内への生活費や教育費は必要なものであれば、
贈与税は非課税とされていますが、
都度贈与するというのは、
案外手間がかかります。

また、年間110万円までなら贈与税が非課税という
「暦年贈与」もありますが、
適切な利用を心掛けると
話し合いや書類の用意が必要になったりと、
やはりある程度の手間が必要です。
手間が必要であるにも関わらず相談できる場所が少ない場合もあります。

一方、父母や祖父母など、
贈与者に想定よりも早い”万が一”が発生した場合は、
場合によっては相続税の課税対象となりますし、
相続人間での遺産分割協議等において影響を与える可能性もあります。

「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」は、
いわばご自身が描く家族への資産移転計画の実現を支援する
手段の一つと言えるでしょう。
制度利用により、生前から一定の相続財産を
ご自身で選び指名した家族へ移転し、
次世代への資産の移転をよりスムーズにつなげられる可能性があります。

また場合によっては、
移転した資産を
遺産分割協議の話し合いのテーブルから降ろすことも可能でしょう。

ただし、制度の利用においてはいくつかの要件もあります。

以下の表をご覧ください。
(表は著者作成。無断転載・コピーを禁じます。)

贈与者というのはお金を贈る方、受贈者はお金を受け取る方、をあらわします。

まず、贈与者と受贈者ともに要件があります。
贈与者は直系尊属であること、とシンプルな一方で、
受贈者は30歳未満の子や孫、
くわえて合計所得金額が1,000万円以下と所得要件も設けられています。

また、使い道は要件を満たす教育資金で、
非課税金額は最大1,500万円までです。
学校に支払うお金だけではなく
23歳までのおけいこ費用や
通学のための定期券代、留学の渡航費なども
使い道として認められていますが、
その場合は500万円という上限が
別途設けられていることには注意が必要です。

お住まいの地域や進学先によっては学校にかかる費用よりも
おけいこ費用の方がかさむという場合も想定されます。

そのため、利用を検討される際は、
金額に関わらず贈与者が元気なうちに、また受贈者の方が幼いうちから、
具体的な使いみちを話し合いながら始めることをお勧めします。

2013年から適用が始まっていますが、
現時点では2023331日までに制度利用を開始することが必要です。
※2023年の税制改正により、2026年3月31日までの延長が見込まれています。

 

【 2 】制度利用のフロー

実際に制度の利用にあたってはどのような手順が必要になるのでしょうか?

以下の図をご覧ください。

(図は著者作成。無断転載・コピーを禁じます。)

 

利用にあたっては、まずは銀行で専用の口座を開設することから始めます。

すべての銀行で専用の口座が開設できるわけではありませんので、
利用を検討する際には
まずはどこの銀行であれば口座を開設できるのか、
リサーチしてみましょう。

専用口座を開設する際に必要なのは、
例えば贈与契約書や戸籍謄本や住民票、
受贈者と贈与者の本人確認書類などが挙げられます。
詳しくは金融機関に確認してみましょう。

専用口座の開設ができたら、
入金する前に非課税措置を受けるための「教育資金非課税申告書」を、
利用する金融機関の支店等を経由して提出します。

 

※申告書の様式は国税庁のウェブサイトから確認できます。

https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/sozoku-zoyo/annai/pdf/0021003-184_01.pdf

※申告の手続きについて、国税庁のウェブサイトからも確認できます。

https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/sozoku-zoyo/annai/201304_01.htm

 

利用の際は基本的に、
専用口座に一括入金されたお金を
必要に応じて金融機関に請求し、受け取る、
という流れになります。
そのため贈与者はまとめて入金すること、
受贈者は領収書を保管して金融機関に請求することが必要です。

金融機関によっては
スマートフォンのアプリで領収書の提出をできるところもあるようですので、
利用中の使い勝手も含めて
総合的に金融機関を検討しましょう。

 

【 3 】制度利用の注意点

制度を利用するにあたって、注意点もあります。
注意点を3つ解説します。

・受贈者が30歳になると、原則その時点での残高に贈与税が発生。

・贈与者の死亡時の課税は信託契約時期や受贈者の状況により、対応が異なる。

・預金保険制度の保護の対象であるものの、預金額には注意が必要。

 

順に解説します。

・受贈者が30歳になると、原則その時点での残高に贈与税が発生。

基本的に専用口座の残高を受贈者が独立するまでに
教育資金として使い切ってしまえば、心配することは特にないかと思いますが、
贈与金額を大きくとりすぎて使い切らなかった場合には、
注意が必要です。

大学・大学院を卒業しても、
留学をしたり教育訓練を受ける際には一部資金に活用もできますが、
30歳の時点で使いのこしがある場合は、
必要な手続きを行っていない場合、
30歳になった時点で残高に対して贈与税が加算されます。

また、残高は減っていても教育資金ではないお金に充てていた場合も、
贈与税が加算されます。

【2023年の改正点】
2023年4月1日以後、管理残高に対する贈与税の計算にあたり適用される税率は
特例税率ではなく、一般税率となる見込みです。
特例税率は18歳以上の子や孫が父母または祖父母から贈与を受けた場合に適用される税率で、
一般税率より税金負担が軽減されています。
そのため、今後の管理残高があった場合の税金負担は、重くなる見込みです。

 

・贈与者の死亡時の課税は信託契約時期や受贈者の状況により、対応が異なる。

 

万が一、受贈者が30歳になるよりも早くに
贈与者がなくなってしまった場合はどうなると思いますか?
以下の表をご覧ください。

(表は著者作成。無断転載・コピーを禁じます。)

2019331日までの信託契約と拠出の場合は、
その時点で使い残しがあったとしても相続財産には加算されませんが、
201941日以降の信託契約と拠出の場合は、
場合によっては相続財産に加算されます。

しかし、贈与者が死亡した時点で受贈者が大学に在学しているなど
一定の要件を満たす場合は、
使い残しがあったとしても、
適切な手続きを踏まえれば相続財産には加算されません。

ただし、必要な手続きをしなかった場合や
例外となる要件に当てはまらなかった場合には
相続財産に加算され、
受贈者が孫の場合には2割増しされた相続税がかかります。

 【2023年の改正点】
2023年4月1日以降の一括贈与からは、
受贈者の年齢が23歳未満であっても、
贈与者の相続税の課税価格が5億円を超える場合は、
残っている金額がすべて相続財産の課税価格に加算されるようになる見込みです。

・預金保険制度の保護の対象であるものの、預金額には注意が必要。

預金保険制度をご存じでしょうか?

万が一金融機関が破綻して
預金先の金融機関から払い出しを受けられない場合も、
一定の金額まで預金保険機構から
直接払い出しをうけることができる制度です。

対象となるのは普通預金や定期預金など、
一定の要件を満たした預金で、
外貨預金や一部の仕組み預金は対象外です。

預金者が改めて加入を申し込む必要はなく、
預金先の銀行等が加入することによって
補償を受けられる仕組みです。

万が一の時に預金保険機構から受け取ることができる金額は、
決済用預金を除き
1人あたり1金融機関につき元本1,000万円とその利息まで。

(参考:預金保険機構Webページ https://www.dic.go.jp/index.html )

教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置を利用した専用口座の預金は、
預金保険制度の保護の対象となりますが、
万が一の際にも保全されるのは、
制度にのっとり1,000万円とその利息までということになります。

教育資金一括贈与の非課税限度額は1,500万円ですが、
万が一が発生した場合には、
残高の1,000万円を超える部分は
払い戻しを受けられない可能性があるのだということも、
知っておきたいところです。

 

【 4 】まとめ

相続対策は必ずしもすべての方に必要なわけではありません。
しかし、相続対策が必要となった場合には、

さまざまな情報を鵜呑みにしていると
対策を過度に行ってしまうリスクもはらんでいます。

こんなはずじゃなかったとならないためには、
さまざまな制度を知り、
ご自身の家計に組み込んだ上で
影響や効果を測ることも必要でしょう。

 

一括贈与の際に利用できる非課税措置は
教育資金だけではなく
結婚・子育て資金や
住宅資金においても存在します。

公平さを欠けば混乱も招きかねませんが、
たとえば今回解説した教育資金の一括贈与の特例など、
一つの具体的なしくみを
家族みんなで話し合うことにより、
昨日よりもいい明日につなげる一石を
投じることはできるのではないでしょうか。

当オフィスの家計の診断コースでは、
まずは今の家計の現状から、
相続対策が必要そうか、必要であればどのような選択肢が考えられるのか、
といったアドバイスも可能です。
必要に応じて適切な相談先も提示させていただきます。

お一人では抱え込めないなと感じたらお声かけ下さい。

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