こんにちは。見つける。ツクル。
家計の総合医。ファイナンシャルプランナーの内田英子です。
主に会社員や公務員の配偶者の社会保険料や税金負担増減の境となる「年収の壁。」
壁を越えると収入が一定水準を超えるまでは「手取り」が減ることになるため、
年収の壁を意識して働き方をセーブする方は少なくありません。
人手不足の要因とも指摘されており、
9月27日厚生労働省は10月から実施する対策の内容を「年収の壁 支援強化パッケージ」として公表しました。
年収の壁 支援強化パッケージとはどのようなものなのでしょうか。
具体的な対策の内容から、実際に影響を受けると思われる
会社員・公務員の配偶者の視点で理解の注意点について解説します。
年収の壁 支援強化パッケージについて詳しくみていく前に、
まずは年収の壁とはそもそも何なのか、確認していきましょう。
年収の壁は、前述しましたが、一言で言えば
「主に会社員や公務員の配偶者の社会保険料や税金負担増減の境となる年収額」です。
なぜこのような壁が出現するのかと言えば、
税制と公的年金保険制度・公的医療保険制度に設けられた特別ルールにひもづいています。
日本には国民皆年金・国民皆保険というルールのもと、日本に住むすべての人は
なんらかの公的年金保険制度や公的医療保険制度に加入することが義務づけられています。
例えば公的年金制度は国民年金と厚生年金があり、公的医療保険制度には市町村国保や健康保険などがありますが、
加入するものはご自身の働き方によって異なります。
つまり、日本に住むすべての人が納税の義務とともに公的年金保険制度や公的医療保険制度に加入し、
保険料を支払うことが義務づけられているわけですが、実は以下の様な特別ルールも設けられています。
・所得の低い方は税金の支払いを免除
・所得の低い方を養っている人は税金負担を軽減
・「会社員/公務員」の配偶者や家族で所得の低い方は公的医療保険料の支払いを免除
・「会社員/公務員」の配偶者で所得の低い方は公的年金保険料の支払いを免除
※あえてざっくりと表現しています。それぞれにはその他にも一定の要件があります。
2つめは「税金の扶養」、3つめと4つめは「社会保険の扶養」という概念です。
税金の扶養の概念は職業を問わず適用されますが、
社会保険の扶養という概念は同じ公的年金制度であっても
厚生年金に加入する会社員や公務員である国民年金2号被保険者と健康保険の被保険やのみ使えるものです。
そのため、たとえば国民年金にのみ加入する1号被保険者であって、
市町村国保に加入する自営業者の方が世帯主、という家庭ではそもそも扶養の概念はないため、
配偶者の所得が低い場合も毎月国民年金保険料や国保料を負担しなければいけない、ということになっています。
配偶者がいないひとり親のかたであっても、加入するのが市町村国保であれば
子どもの国保料をあわせて負担しなければいけません。
このように「年収の壁」の一部にひもづく「社会保険の扶養」という概念は公平さでみると疑問が残ります。
しかし現状はこのようなしくみとなっており、
支払う税金や社会保険料の負担が増えれば手取りは減るため、年収の壁を意識して働く方が多くいらっしゃいます。
ちなみに、「年収の壁」とひとくちに言っても、1つだけではありません。「年収の壁」は現在6つあります。
※図は著者作成。無断転載・コピーを禁じます。
具体的には以下のように「税金の壁」と「社会保険の壁」と大きく2つに分けることができます。
・税金の壁:①「100万円の壁」②「103万円の壁」③「150万円の壁」④「201万円の壁」
・社会保険の壁:①「106万円の壁」②「130万円の壁※」
それぞれの詳しい内容は過去のブログで記事を書いていますのでそちらでご確認ください。
「【2022年10月新たな壁出現!?】 無理のないキャリアプランに。 知っておきたい扶養の知恵」
次に、今回発表された年収の壁 支援強化パッケージの主な内容について見ていきましょう。
年収の壁には現状6つのものがあることは前述しましたが、
今回施策が関係してくるのは以下の2つのみです。
・106万円の壁
・130万円の壁
まず106万円の壁に関する主な施策の内容はこちらです。
こちらは、主に106万円に収入を抑えながら働く被扶養者の勤め先の企業に対して行われるもので、
例えば壁を越えたことによる手取り減をカバーする賃上げや手当の創設などを行った場合に
最長3年間、あわせて最大50万円助成を行うというものです。
ちなみに、106万円の壁が適用されるのは、
現状では101人以上の勤め先で働く会社員/公務員の配偶者です。
※詳しくはこちらの記事をお読みください。
「【2022年10月新たな壁出現!?】 無理のないキャリアプランに。 知っておきたい扶養の知恵」
つまり、実質的に労働者の保険料負担を肩代わりする取り組みを行い、
積極的に人手不足解消にアクションをとる企業には経済的な支援を行うというものです。
次に、130万円の壁に関する主な施策の内容はこちらです。
130万円を超えないように収入を抑えながら働く被扶養者の勤め先の企業に向けて
設けられた枠組みで、例えば人手不足による一時的な130万円を超える収入増であれば、
連続2年まで扶養にとどまれるよう、被扶養者の勤め先の企業が証明を発行できる、というものです。
扶養認定においては、これまでは一時的な収入増であれば
扶養内にとどまれるといったルールはあったものの、
過去の課税証明書、給与明細書、雇用契約書等の確認が必要でした。
この点を改善し、証明書の発行により被扶養認定申請をスムーズにできるように支援する仕組みと言えるでしょう。
人手不足だからといって新たに人を雇うにも企業にとっては費用がかかります。
個人的には、新規採用の費用を抑えつつ、収益改善を目指し、
最終的に賃金アップとともに人材の定着を促す猶予期間を設けることをねらいとしているのだろうかと推測しています。
今回発表された施策をめぐっては、特に130万円の壁に関連したものに
さまざまな声や疑問が飛び交っているようです。
そこで現在社会保険の扶養に入っている会社員/公務員の配偶者の視点でみた、
今回の130万円の壁に関する施策理解の注意点について3つ挙げ解説していきたいと思います。
・あくまで一時的な収入増が対象
・最長2年間扶養にとどまれるとするも毎年申請が必要
・最終的には健康保険組合が判断
まずは、今回の施策は最長2年間扶養内にとどまれるよう設けられた枠組みですが
あくまで一時的な収入増が対象となっている、という点をおさえておきましょう。
企業との話し合いを前提としたものだと思われますから、
ご自身で自ら積極的にシフトを増やしたりする場合は対象とならないことでしょう。
また、最長2年扶養にとどまれるとしているものの、毎年申請が必要で、
最終的にはその申請を受け、世帯主の加入する健康保険組合が扶養認定をします。
財政に黄色信号が灯っている健康保険組合が少なくなく、
このところ扶養認定は厳しくなっている傾向も見受けられます。
申請をスムーズにできるようになったからと言って
必ず扶養認定されるとは限らない、と言った点はおさえておきましょう。
年収の壁 支援強化パッケージについて解説しました。
こどもが幼い時など、たしかに扶養のしくみはとても助かるものでもありますが、
多くの方が長生きをする今、生活設計という視点で見れば不利な点もいくつかあります。
また物価の上昇にともない賃金が上昇する一方、年収の壁の金額は変わらないとすれば、
年収の壁を越えないままではいずれは家計面で厳しい事態に陥る可能性もあるでしょう。
これからの暮らし設計にもやもやを感じたらお声かけください。
ライフプランシミュレーションにもとづき、あなたが元気になる暮らし設計を応援します。