【2022年4月~】年金受給時期のカスタマイズがしやすく。

2022.3.15更新

こんにちは、家計の総合医。
ぐっすり眠れる家計運用コンサルタントの内田英子です。

年金改正により、2022年4月以降
繰り上げ受給の際の減額率が小さくなり、
老齢年金を受け取り始める年齢の選択肢が75歳までに
拡大される見込みです。

 

老齢年金は
公的年金制度における3つの給付のうちの一つであり、
主に退職後に定期的に一定のお金を受け取ることができる、
いわば「高齢期の所得を補う」保障です。

また、公的年金制度は国民年金と厚生年金に大別されますが、
いずれも老齢年金は65歳以降の受け取りを原則としており、
65歳を基準として
年金受給時期を調整できる仕組みになっています。

今回の年金改正においては、
実はその他にもさまざまな変更が見込まれているのですが、
老齢年金の受給時期を
遅らせる場合の選択肢が75歳までに拡大するのと同時に
早める場合の減額率も小さくなり、
より老齢年金受給時期のカスタマイズがしやすくなる見込みです。

そこで、今回のブログでは
公的年金制度や
老齢年金の繰り上げ、繰り下げの基本から、
今回の年金改正を踏まえた利用の注意点について

家計の総合医の視点で解説します。

【 1 】公的年金制度の基本
【 2 】老齢年金の繰り上げ・繰り下げ
【 3 】年金改正による繰り上げ・繰り下げの変更点
【 4 】年金繰り上げ・繰り下げの注意点
【 5 】まとめ

【 1 】公的年金制度のきほん

公的年金制度は「皆年金体制」の下、
公的医療保険制度とともに、社会保険制度の両輪をなしています。
また日本に住むみんなの万が一を
みんなで支えあう「社会的扶養」の働きをもっています。

公的年金制度は2階建てで、
国民年金保険と厚生年金保険に大別されます。

これらは名前の通り、「保険」であり、
原則加入して保険料を支払っている人が、
万が一の際に給付を受けられる仕組みになっています。

年金と聞くと、年を重ねてから受け取れる老齢年金が広く知られていますが、
実は年金保険で受け取れる給付は以下の3種類あります。

・「老齢給付」
・「障害給付」
・「遺族給付」

老齢給付は高齢期に受け取れる給付です。
障害給付は一定の障がいを負った時に受け取れる給付です。
遺族給付は大黒柱が死亡して、世帯所得が減った場合に
原則残された子どもが受け取れる給付です。
つまり、公的年金保険とは、
いわば「人生の重大な3つの所得減のリスクに備えることができる保険」
と言い換えることができるでしょう。

【 2 】老齢年金の繰り上げ・繰り下げのきほん

高齢期の所得減を補う老齢年金ですが、
原則65歳受け取り開始としながらも、
実は受け取り時期を希望に応じて早めたり
遅めたりすることができるようになっています。

老齢年金の受け取り時期を早めることを「年金繰り上げ」といい、
老齢年金の受け取り時期を遅めることを「年金繰り下げ」といいます。

年金繰り上げを利用する場合、
一番早い時期では60歳まで早めることができますが、
早めた月数に応じて1月あたり0.5%年金が減額されます。
例えば繰り上げにより60歳から年金を受け取り始めた場合、
60月受取時期を早めたことになりますので、
減額割合は
0.5%×60=30%
となり、
30%の減額がされた年金を
一生涯受け取ることになります。
なお、年金繰り上げができるのは
1階部分の国民年金(老齢基礎年金)と2階部分の厚生年金(老齢厚生年金)で、
原則的には両方セットで繰り上げる必要があります。
(65歳よりも以前に受け取れる特別支給の老齢厚生年金がある場合は、
時期によっては老齢基礎年金を単独で繰り上げることも可能です。)

ちなみに、年金繰り上げを希望する場合は、
「年金請求書」と「繰り上げ請求書」に必要書類を添えて年金事務所等へ提出します。

「年金請求書」と「繰り上げ請求書」は
以下の日本年金機構のホームページから入手することもできます。

★「年金請求書」はこちら:
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/todokesho/rourei/2018030501.files/101.pdf

記入方法:
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/tetsuduki/rourei/seikyu/kinyu.html

★「繰り上げ請求書」はこちら:
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/todokesho/rourei/kuriageseikyusho.html

一方、年金繰り下げを利用する場合は、
最長で70歳まで年金受取りを先延ばしすることができ、
待機月数に応じて1月あたり0.7%年金が増額されます。
例えば70歳まで繰り下げた場合は、
60月受取りを待ったことになります。
そのため、増額割合は
0.7%×60=42%
となり、
42%増額された年金を一生涯受け取ることになります。

なお、年金繰り下げは国民年金(老齢基礎年金)、
65歳以降の厚生年金(老齢厚生年金)どちらも可能ですが、
どちらか一方のみを選んで行うことも可能です。
両方繰り下げする場合は、65歳の時点で手続きをせず、
受取り希望時期が近づいてきたら年金事務所等で手続きを行います。
どちらか一方のみを繰り下げしたい場合は
65歳の誕生月のはじめに送られてくる年金請求書にて
どちらを繰り下げするのか申し出ます。

ちなみに、年金繰り下げをしようと思っていたけれど、
途中で気持ちが変わって受け取りたい、と考えるようになった場合、
その時点で繰り下げ請求を行い増額された年金を一生涯受け取る選択肢のほか、
さかのぼってこれまでの増額されない年金を
一括請求する選択肢もあります。

【 3 】年金改正による繰り上げ・繰り下げの変更点

2022年4月以降、
年金改正により変更される年金繰り上げと繰り下げの内容は以下の2点です。

1.繰り下げ受給時期が75歳まで選べるようになります。
2.繰り上げる場合、減額率が0.1%小さくなります。

順に解説します。

1.繰り下げ受給時期が75歳まで選べるようになります。

前述のとおり、
現在は老齢年金を繰り下げ受給できるのは70歳まで。
70歳まで繰り下げた場合、
42%増額された年金を受け取れます。
しかし、年金改正により4月以降は
75歳まで繰り下げ受給時期を延ばすことができるようになり、
最長120カ月繰り下げることが可能となります。
そのため、4月以降は繰り下げにより
最大84%増額された年金を受け取ることが可能になります。

ちなみに、75歳を過ぎて繰り下げ受給を申し出ることもできますが、
待期期間としてカウントされるのはあくまで75歳まで。
4月以降は75歳をすぎて繰り下げ請求をしても
75歳で申し出があったものとみなされ、
以後84%増額された年金が支給されます。

なお、繰り上げ受給時期の選択肢が75歳まで広がるのは
2022年4月以降に70歳になる方のみです。
2022年3月末時点で70歳になっている方には適用されません。

2.繰り上げる場合、減額率が0.1%小さくなります。

繰り上げ受給をする場合、
1月あたり0.5%減額された年金が
支給されることは前述しました。
しかし、年金改正により、
4月以降は減額率が0.1%減り、
0.4%に変更されることが見込まれています。
これまでであれば、最大30%減額されていましたが、
4月以降は減額率が6%小さくなって、24%の減額に変わり、
これまでよりも年金額が増えるということですね。
ただし、この減額率が適用されるのは
2022年4月1日の時点で60歳になっていない方のみ。
2022年4月1日時点で60歳になっている方は
これまでの0.5%の減額率が適用されます。

【 4 】年金繰り上げ・繰り下げの注意点

年金の繰り上げや繰り下げを行う場合は、
どのような点に注意すればいいのでしょうか?
まずはどちらも共通しての注意点を3つ解説し、
そののち年金改正を踏まえたそれぞれの注意点を解説します。

【繰り上げ・繰り下げ共通の注意点】

1.請求後取り消しは不可。
2.増減率は請求月ベース。請求後、初回振込までには時間がかかる。
3.増減率は手取りベースではない。

1.請求後取り消しは不可。

繰り上げも繰り下げも、
どちらも請求後、取り消すことはできません。
また、年金の増減率はずっと適用されます。
そのため、申し出をする前には、
実際に変わる年金額のシミュレーションを行い、
家計にとって無理がないか、
じっくりと検討する必要があるでしょう。
特に繰り上げ受給を行う場合は、
後述しますが利用によりさまざまな制限も出てくる可能性があります。

2.増減率は請求月ベース。請求後、初回振込までには時間がかかる。

年金繰り上げ・繰り下げ受給を利用する場合、
増減率は1月単位で計算しますが、
請求月をベースとしカウントしています。

また、年金の受取は通常偶数月の15日で2か月ごとの後払いですが、
請求後初回振込には2か月程度かかります。

あらかじめしっておきましょう。

3.増減率は手取りベースではない。

年金繰り上げの場合は1月あたり0.4%減額され、
年金繰り下げの場合は1月あたり0.7%増額されますが、
これらの増減率はあくまで額面ベースであり、
手取りベースではないことには注意しましょう。
実際に受け取れるのは
税金や社会保険料が差し引かれた後の金額です。
特に繰り下げを行った場合は、
毎月の税金と社会保険料負担が増え、
手取り割合が減ることも見込まれます。
手取りベースの増減率は
額面ベースのものよりも小さくなることを心得ておきましょう。

【年金繰り上げの注意点】

 

次に、年金繰り上げの注意点を3つにわけ解説します。

1.その他の年金に制限がかかる。
2.雇用保険からの給付に制限がかかる。
3.繰り上げ後は任意加入・追納不可。

1.その他の年金に制限がかかる。

年金は1人1年金が原則のため、
例外もありますが、基本的に1つの年金を受け取っている場合、
その他の年金を受け取ることはできなくなります。
そのため、年金を繰り上げた場合は、
年金繰り上げ後に持病が悪化したりしても障害年金を受け取ることはできません。
ちなみに、障害基礎年金は1級であれば年100万円弱あり、
繰り上げ受給する場合の老齢基礎年金よりも多いです。
また、繰り上げ後に配偶者が死亡した場合、
通常であれば65歳になるまで遺族年金を受け取りますが、
繰り上げ受給している場合は
あわせて受け取ることはできなくなります。
その場合、65歳になるまではいずれかを選んで受給し、
65歳以降は併給できますが、
ご自身の年金は減額されたまま支給されます。

また、自営業の夫がいる妻の場合、
夫が老齢年金をもらう前に亡くなった場合には、
要件を満たせば60歳以降64歳まで寡婦年金が受け取れますが、
繰り上げ受給している場合には受け取れません。

2.雇用保険からの給付に制限がかかる。

65歳になるまでの間、
雇用保険の基本手当や高年齢雇用継続給付を受け取っている場合、
老齢基礎年金を除き
老齢厚生年金の一部か全部の年金額が支給停止となります。

両者はいずれも共通して所得補償という意味合いをもっているための措置と思われます。

3.繰り上げ後は任意加入・追納不可。

国民年金の満期は40年。
これにより年金を満額受け取れるようになりますが、
40年に満たない場合は
60歳以降も任意加入して保険料を納めることができます。
任意加入する場合、
1年加入することで年金を年2万円弱増やすことができ、
10年程度年金を受け取れれば元がとれます。

しかし、繰り上げした場合は、
年金上65歳に達したとみなされるため
任意加入や追納が出来なくなり、
国民年金を増やすことはできません。

【年金繰り下げの注意点】

次に、年金繰り下げの場合の注意点について、
ポイントを4つ挙げて解説します。

1.加給年金
2.共働き夫婦の遺族年金
3.公的医療保険や介護保険の自己負担額が増加する。
4.年金の時効により受け取れない部分が発生する可能性

1.加給年金

加給年金は「年金版の家族手当」とも言われ、
一定の要件を満たし65歳未満の配偶者など扶養家族がいる場合に、
65歳以降プラスアルファで受け取れる年金です。

基本的に加給年金は厚生年金とセットで受給できます。

そのため、厚生年金を繰り下げる場合、加給年金は受け取れなくなります。

もちろん厚生年金は繰り下げず、
基礎年金のみ繰り下げるという選択肢もありますが、
90歳近くまで長生きをした場合や配偶者との年の差によっては、
加給年金を見送っても
厚生年金を繰り下げした方が有利となる場合があります。

ちなみに、最終的に繰り下げ受給ではなく、
これまでの増額されない年金を一括受給する場合には、
加給年金も一緒に受け取れます。

2.共働き夫婦の遺族年金

繰り下げ待機中に配偶者が亡くなった場合に、
一定の条件で遺族年金が給付されますが、
遺族年金額を計算する場合に基準となる年金額は
繰り下げ前の65歳時点での年金額に基づきます。
そのため、万が一の際には繰り下げの効果がなくなる可能性があります。
また、夫婦ともに老齢厚生年金を受け取れる場合は、
場合によっては繰下げによって遺族厚生年金が受け取れなくなる場合もあります。
共働きで繰り下げを検討する際には、
年金事務所などへ早めに相談することが大切です。

3.公的医療保険や介護保険の自己負担額

年金繰り下げによって、
年金収入を増やすことはできますが、
一方で税金や社会保険料負担は増えます。

そのため、前述のように手取り割合が減るのと同時に
医療保険や介護保険の利用時の負担額が
増える可能性もあります。
例えば、医療保険には高額療養費制度といって
医療費の自己負担額の上限が所得に応じて設けられていますが、
年金が増えることによってこの上限が上がる可能性があります。
つまり、万が一の医療費の自己負担額があがるということですね。
また、介護保険においても高額介護サービス費の上限が設けられていますが、
こちらも同様です。

場合によっては特別養護老人ホーム入居の際の自己負担額も増える可能性があります。

4.年金の時効により受け取れない部分が発生する可能性

繰り下げ年齢の拡大に伴って70歳以降に繰り下げ受給ではなく
増額されない年金を一括して受け取った場合に、
生年月日によっては時効により
受け取れない部分が発生する場合があります。
注意が必要なのは、昭和27年4月1日以前生まれの方。

昭和27年4月2日以降生まれの方には
時効により受け取れなくなる年金はありませんが、
昭和27年4月1日以前生まれの方は
時効により一部受け取れない年金が発生します。

【 5 】まとめ

繰り上げ受給と繰り下げ受給の年金改正に伴い、
年金制度の基本と年金繰り上げ・繰り下げの基本、
そして注意点について解説しました。

改正により年金受給時期は
カスタマイズしやすくなることが見込まれますが、
年金の繰り上げ受給と繰り下げ受給にあたっては
メリットだけではなく、
デメリットやさまざまな注意点もあります。

ご自身にとって実際にどのようなものがメリットとなり、
デメリットとなるのかは
それぞれの年金の加入状況や家計、働き方等によっても異なります。

当オフィスの家計診断コースでは
シミュレーションを行うことで、
まずは現在の家計を見える化しています。

もちろん実際のあなたの年金受給額の計算はできませんので
年金事務所等で実際の受給額は問い合わせていただくようになりますが、
年金額のシミュレーションも含めた家計の見える化により、
どのような年金の受け取り方の選択肢があるのかが見えてきます。

これからの暮らしにもやもやを感じたらぜひご相談ください。

あなたとご家族が
一日も長く健やかに安心して暮らせるよう、
総合的で長期的な視点に基づくファイナンシャルプラニングと
を耕す生活設計で応援しています。

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