こんにちは、生活設計塾FPオフィス幸せ家族ラボ代表、
家計運用コンサルタントの内田英子です。
前々回、前回のブログでは、公的医療保険制度に関連し、
任意継続被保険者制度と傷病手当金について解説しました。
いずれも公的医療保険制度の枠組みに入るものですが、
いわば公的医療保険制度の枝葉の部分と言えます。
そのため、そもそも公的医療保険制度についてよく知らない、
といった方には
読んでみてもいまいち想像ができない、
といったこともあったことでしょう。
そこで、今回のブログでは、「公的医療保険制度」の基本から、
その給付の特徴や知っておきたい給付内容など、
いわば公的医療保険制度という大木の幹の部分について、
家計の総合医の視点で、解説していきます。
【目次】
【 1 】公的医療保険制度
1.公的医療保険制度の概要
2.給付の特徴
3.知っておきたい給付3つ
【 2 】まとめ
公的医療保険制度は国民全員の加入が義務づけられており、
療養の為の必要な医療給付を公平に行うことを基礎とする国の制度です。
公的年金保険制度とともに、社会保険制度の両輪をなしています。
74歳までは原則職業などによって加入保険は分けられますが、
75歳以降はすべての人が後期高齢者医療制度に加入します。
下の図をご覧ください。
公的医療保険制度の種類を一覧にしたものです。
(著者作成。※図の無断コピー・無断転載を禁じます。)
74歳までは先述の通り職業などによって、公的医療保険は分けられます。
加入するのは職域保険か地域保険のいずれかとなりますが、
職域保険は被用者保険とも言われ、
さらに組合健保や協会けんぽ、共済などにわかれます。
主に会社員や公務員など、お勤めの方が加入します。
一方地域保険は、国民健康保険であり、市町村国保や組合国保などにわかれます。
主に自営業者や退職者の方などが加入します。
ちなみに、加入する被保険者が支払う保険料は、
双方とも所得に一定の料率を掛け算出することを基礎としている点は共通していますが、
職域保険では労使折半が原則となるのに対し、
地域保険では全額自己負担となるなど、
その負担方法については違いがあります。
公的医療保険の給付は大きく以下の2つに分けることができます。
・「現物給付」
・「現金給付」
現物給付では、病気やけがをした場合に、医療そのものを給付します。
例えばあなたがけがをして、病院に行かれる状況を想像されてみてくださいね。
あなたがいずれかの公的医療保険制度に加入しており、
保険証を持っていれば、ご自身が選んだ病院へ行き、
そしてそこでご自身の名前の書かれた保険証を提示すれば、
その場でお手当を受けることができますね。
つまり、医療の提供を受けることができるということです。
話を聞くと、なあんだそんなことか、
と思われたかもしてませんが、
つまりはそういうことを指しています。
ちなみに、日本においてはどの医療機関で医療を受けても
一定の水準の医療技術が確保されており、
医療機関の選択の自由も確保されています。
しかもその際にご自身で支払われる金額は、
主には年齢によって決められた自己負担割合に基づいて計算された金額となり、
広く医療を受けやすい環境が整っていると言えるでしょう。
わたしたちが今、必要な時には必要な医療を受けることが当たり前にできる、
そのような環境を支える土台となっているのは確かに、公的医療保険制度なのです。
(参考)自己負担割合表
(著者作成。※図の無断コピー・無断転載を禁じます。)
※お住まいの自治体によって更なる負担軽減が図られている場合もあります。
加えて、公的医療保険制度では現金給付を受けることもできます。
例えば旅先や不慮の事故によって保険証を持ち合わせていない場合に医療機関で医療を受けた場合、
一旦は窓口で全額の支払いをする必要はありますが、
後日申請をし、承認されれば、規定の自己負担額を超えて支払った金額
(通常3割負担の方であれば支払った医療費の7割の部分)
の払い戻しの給付をうけることができます。
また、高額療養費制度では一定の自己負担額を超える医療費を支払った場合には、
自己負担額上限を超える部分の給付を受けることができるようにもなっています。
(高額療養費制度の詳しい内容は後述します。)
このように、後日お金の支払いによって行われる給付もあります。
①高額療養費
②世帯合算
③多数回該当
公的医療保険制度の給付にはさまざまなものがありますが、
特に知っておきたい上記給付(本人給付)3つの概要を順にご紹介、解説します。
加入者が、医療機関などで治療を受け、
1カ月(1日から末日まで)の医療費の自己負担額が、
一定額を超える時は、個人ごとの申請により超えた金額の払い戻しを受けることができます。
払い戻しの請求には期限があり、原則、診療月の翌月1日から2年間です。
ただし、医療費であればどんなものでも高額療養費として計上できるわけではありません。
差額ベッド代、保険適用のない治療費、入院中の食事代の自己負担額は支給の対象外となり、
70歳未満の方の場合はその自己負担分が21,000円以上のものが対象となります。
また、医療機関ごと、さらに医科と歯科は分けて計算します。
加えて同じ病院でも入院と外来は別計算します。
ところで、あなたの医療費の自己負担額はいくらになると思いますか?
実は個人ごとの医療費の自己負担額は、段階的に年齢や所得によってその水準が定められています。
まずは年齢によって大きく2つに区分されます。
境界となる年齢は70歳です。
70歳を境とし、70歳以上、あるいは69歳以下かによって
医療費の自己負担額の上限の計算式が分けられているのです。
ですから、あなたの医療費の自己負担額が知りたいと思われる場合は、
まずはあなたの年齢からどちらの区分に当てはまるのかを確認します。
そしてさらにそこから所得によって細かく区分し
最終的なご自身の医療費の自己負担額を求める計算式を確認していきます。
では、具体的にはどのような計算式となっているのでしょうか?
下の2つの図をご覧ください。
(出典:厚生労働省保険局「高額療養費制度を利用される皆さまへ」)
先述の通り、まずは年齢によって区分されますので、
あなたが70歳以上ならば①の表を、69歳以下ならば②の表を見ていきます。
どちらの表を利用するかわかったら、
ご自身の所得と照らし合わせながらさらに細かくどの区分にあてはまるか確認します。
例えば、年収500万円の協会けんぽ加入のAさんという方がいたとします。
Aさんの自己負担割合は3割です。
Aさんであれば②の表中の(ウ)の区分に当てはまることとなり、
医療費の自己負担額の上限は以下の算式によって求められた金額ということになります。
ちなみに、計算式のなかにある「医療費」というのは、
ご自身が窓口で支払った自己負担額(一般的には3割)ではなく、
10割支払った場合の医療費の金額を指しています。
例えば、前出のAさん(自己負担割合は3割)が窓口で30万円支払ったとしましょう。
その際の自己負担額の上限は、以下の算式によって求められます。
80,100+(1,000,000―267,000)×1%=87,430
算式に参入する「医療費」は窓口で支払った30万円ではなく、
10割となる医療費ですから100万円を参入します。
よって、これにより求められる金額は87,430円です。
この金額がAさんの医療費の自己負担額上限となるわけですね。
一方Aさんはすでに窓口で30万円を支払っていますから、
87,430円を上回る212,570円は申請によって、
後日高額療養費として還付を受けることができます。
必要な医療費の負担をこれほど大きく抑えることができることは、
本当にうれしいことですね。
還付を受ける場合は事後申請となるため、
実際に手元に払い戻しを受け取ることができるのは3-4ヶ月後になりますが、
事前に入院など、高額な医療費を負担することがわかっているのであれば
加入中の公的医療保険の保険者に連絡し、
予め「限度額適用認定証」という書類を取っておきましょう。
この「限度額適用認定証」があれば、
立て替える必要はなくなり、窓口での自己負担額をスムーズに抑えることができます。
例えば1つの世帯において、
70歳未満で1か月のうちに自己負担額21,000円以上支払ったものが
2件以上ある時などに、
合算して一定額を超えた部分を高額療養費として
払い戻しを受けることができます。
例えば表②の(ウ)の区分に当てはまるBさんとCさんという、
自営業を営むご夫婦がいらっしゃったとします。
お二人はともに市町村国保に加入しており、
それぞれに同月5万円の自己負担額を医療機関の窓口で支払いました。
この場合、BさんCさん、
いずれにしてもその他に支払った医療費がなければ
お一人では高額療養費の還付をうけることはできないということになりますが、
ここで世帯合算のしくみを活用します。
この世帯合算のしくみにより、
ご夫婦で負担した医療費を合算して高額療養費を算出できるようになり、
還付をうけることができるのです。
ただし、この世帯合算の仕組みには注意点もあります。
合算できる相手が一定の枠組みによって定められていると言う点です。
基本的に同じ医療保険に加入している相手でなければ合算できませんし、
69歳以下の方であれば
21,000円以上の自己負担をした医療費しか計上できません。
また、二世帯住宅など住民票上で世帯が分かれていたとしても
同居していれば合算の対象とすることはできますが、
後期高齢者医療制度に加入している家族とは合算できません。
(後期高齢者医療制度の加入者同士では合算が可能です。)
世帯合算する場合の上限額は表②に当てはまる方は
高額療養費として統一されていますが、
表①に当てはまる方の場合は、
外来の上限額とは異なる点には注意が必要です。
表の右列にある「ひと月の上限額(世帯ごと)」で金額を確認しましょう。
12か月の間に同じ世帯内で4回以上高額療養費に該当した場合に、
4回目からは一定の自己負担額を超えた部分を高額療養費として
払い戻しを受けることができる仕組みです。
一年間に世帯で高額な医療費の負担が続く月が4ヶ月以上ある場合は、
4ヶ月目からはさらに自己負担上限額がさがるということですね。
では、4回目からはどれくらい医療費の自己負担上限額が下がるのでしょうか?
下の図をご覧ください。
(出典:厚生労働省保険局「高額療養費制度を利用される皆さまへ」)
高額療養費同様、年齢と所得によって水準が設けられていますから、
ご自身のあてはまる区分をまずは確認しましょう。
前出の表②(ウ)の区分にあてはまるAさんであれば、
多数回該当の場合の上限は44,400円となります。
当初の医療費の自己負担額上限は9万円弱でしたが、
多数回該当のしくみを活用することで
4回目からは世帯の医療費の自己負担額は44,400円に下がるということですから、
月4万円程度の医療費の負担をさらに軽減させることができるようになるということとなります。
ちなみに、多数回該当のしくみには注意点もあります。
たとえば、療養の途中で退職、転職したりして異なる公的医療保険に加入した場合、
高額療養費の該当回数は通算されず、カウントはリセットされることとなります。
このことからも、万が一長期の療養が必要になる見込みとなり、
退職をという考えがよぎったとしても家計の視点からみれば急がず、
職場や医療機関をはじめとする関係各所に相談し、
休業できる環境を確保することに焦点を移すことが大切だと言えるでしょう。
国民の加入が義務化されている日本の公的医療保険制度においては、
療養の万が一の家計破綻リスクを転嫁し、
家計の下支えとなる仕組みがいくつも存在しています。
民間医療保険は本来、これらの公的医療保険では補いきれない医療費や
その他の療養に必要な費用、減った所得を補うものと言えるでしょう。
しかし、今回ご紹介した公的医療保険による療養の際の万が一を補う給付も、
基本的に自らの申請が必要になりますから、
知っておいて活用できなければ給付を受けることはできません。
同時に活用にあたっては、
今回だけでは書き切れない家計によって異なる注意点もあることは事実です。
当オフィスのコンサルティングでは、
あなたが実際に受けることができる公的医療保険による給付内容を具体的に確認し、
そもそも持続可能な家計を実現するにあたり
適量を超えるリスクをとっていないか?
適切なリスク量を維持するにあたっては、
どのような対策や家計においての工夫が必要か?
など民間医療保険だけによらない
家計運営の枠組みをご提案することが可能です。
もちろん民間医療保険の活用が必要なのであれば
その家計への組み入れ方もご提案させていただきます。
あなたとご家族が一日も長く
健やかに安心して暮らせるよう、
総合的で長期的な視点に基づく
持続可能な生活設計で応援しています。
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